「ケプラーの宇宙模型」の数学的解説

 

ここでは各正多面体の外接球の半径と内接球の半径をユークリッド原論に基づいて求め、現在の実際の惑星軌道半径の比とどの程度の誤差があるかを検証する。

 

(1)各正多面体の外接球の直径

 

@)立方体の外接球の直径

 ユークリッド原論 第13巻 命題15には

「立方体をつくり,与えられた球によってかこみ,そして球の直径上の正方形が立方体の辺の上の正方形の3倍である。」

   とある。(ただし、正方形とは2乗の意味である。)

    

[証明]

 

四角形BFHDに注目する。

より

 

よって、

(立方体の一辺の長さFG):(立方体の外接球の直径FD)=1:

となる。

 

 

 

A)正四面体の外接球の直径

  ユークリッド原論 第13巻 命題13には

   「角錐をつくり,与えられた球によってかこみ,そして球の直径上の正方形が角錐の辺の上の正方形の2分の3である。」

  とある。(ただし、正方形とは2乗の意味である。)

 

  [証明]

三角形ABEに注目する。(右図参照)

Eは三角形BCDの重心なので、

となり、となる。ここで、とおき、三角形OBEに注目する。

すると、三平方の定理よりが成り立つので、

となり、となる。よって、 となる。

 

よって、(正四面体の一辺の長さAB):(正四面体の外接球の直径AF)=1:となる。

 

B)正八面体の外接球の直径

  ユークリッド原論 第13巻 命題14には

  「正八面体をつくり,与えられた球によってかこみ,そして球の直径上の正方形が正八面体の辺の上の正方形の2倍である。」

  とある。(ただし、正方形とは2乗の意味である。)

 

  [証明]

四角形BCDEに注目すると

 

よって、

(正八面体の一辺の長さBC):(正八面体の外接球の直径BD)=1:

となる。

 

 

C)正十二面体の外接球の直径

  ユークリッド原論 第13巻 命題17 系には

   「立方体の辺が外中比に分けられるならば、その外中比に分けられるならば、その大きい部分は正十二面体の辺である。」

  とある。(ただし、外中比とは黄金分割の意味である。)

 

  [証明]

正十二面体の中には左図のように立方体が入っている。この立方体の一辺の長さは正十二面体の正五角形の対角線の長さと一致している。

つまり、図3BEの長さが正十二面体に内接する立方体の一辺の長さになる。(三角形AFBと三角形EABの相似を利用して求められる。)が成り立つ。

 

よって、線分ABの長さは線分BEの長さを黄金分割した時の大きい部分の長さにあたることが分かる。

さらに、この立方体の対角線の長さは正十二面体の外接球の直径にあたっているので、一辺の長さが分かれば、正十二面体の外接球の半径も分かる。

 

これより、(正十二面体の外接球の直径) 

となる。

 

 

 

      図3

  よって、

(正十二面体の一辺の長さAB):(正十二面体の外接球の直径)=1:となる。

 

D)正二十面体の外接球の直径

  ユークリッド原論 第13巻 命題16の系(要約)

   「正二十面体を上から見たときの正五角形の外接円の半径の2乗が正二十面体の

外接球の直径の2乗の5分の1に等しい。」

  ユークリッド原論 第13巻 命題10(要約)

   「正五角形が円に内接しているとき、この正五角形の辺の2乗は同じ円に内接する

正六角形の辺と正十角形の辺の2乗の和に等しい。」

  

  の二つから正二十面体の一辺の長さと外接球の直径との関係が導かれる。

 

  [証明](ユークリッド原論 第13巻 命題16の系)

   

正十二面体の説明のところでもあるように、よりが得られる。

三角形EBMと三角形ENBの相似を利用すると   

となる。

 

よって、正五角形ABCDEの半径EF’は

 

となる。一方、正二十面体の直

 

径であるEGの長さは長方形BGHEに注目することによってできる。

となる。

 

 

よって、となる。

 

以上よりが成り立つことが示せた。

 

  [証明](ユークリッド原論 第13巻 命題10

 この命題で述べている正六角形の一辺の長さはEF’に相当する。また、正十角形の一辺

の長さはユークリッド原論の第13巻の5および9よりEF’を黄金分割した時の大きい部分

の長さである。

つまり、となっている。

これよりが導かれる。

 

 

以上より

  (正二十面体の一辺の長さAB):(正二十面体の外接球の直径EG)=1:となる。

 

 

2)各正多面体の内接球の半径

 

カンパヌス版のユークリッド原論の第15巻の最後の命題では、「立体図形の中心と基底面の中心を結ぶ直線は内接球の半径である」とある。

左図の場合、OIが内接球の半径にあたるが、三角形OHIに注目して、三平方の定理を使えば直ちに求められる。OHの長さは正多面体の外接球の半径と一致し、HIの長さは基底面の外接円の半径と一致している。外接球の半径についてはもうすでに求めているのであとは、基底面の外接円の半径を求めれば良い。

5つの正多面体の基底面の形は正三角形、正方形、正五角形の3種類しかない。基本的には正弦定理を用いることによって求まる。

 

 

 

(@)基底面が正三角形の場合 

 

三角形ABCに正弦定理を用いると

 

となる。

 

 

 

(A)基底面が正方形の場合

となっている。

 

 

 

 

 

(B)基底面が正五角形の場合

  正五角形の外接円の半径については正二十面体の外接球の半径を求めるときにもう

すでに求めている。正五角形の一辺の長さをとおくととなる。

 

3)実際の惑星軌道半径の比との比較

 

 

外接球の半径

内接球の半径

外接球と内接球の半径の比の値

現在の隣り合う惑星軌道半径の比の値

立方体

正四面体

正八面体

正十二面体

正二十面体

    ※ただし、は各正多面体の一辺の長さを表している。

 

  この表よりケプラーの宇宙模型が表す惑星軌道半径の比の値と実際の惑星軌道半径の比

の値とは近いようで遠い値となっていることが分かる。

 

For Allプロジェクト/数学史の授業例:宇宙の神秘

参考文献: ヨハネス・ケプラー(1986)宇宙の神秘(大槻真一郎 ほか 訳)青土社


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