要約
筑波大学大学院修士課程教育研究科 福間 政也
平成8年7月の中央教育審議会第一次答申において、「数量、図形などに関する基礎的な概念や原理・法則の理解を深め、数学的な表現や処理の仕方を習得し、事象を数理的に考察する能力を高めるとともに、数学的活動の楽しさ、数学的な見方や考え方のよさを知り、それらを進んで活用する態度を育てる。」という学習指導要領の数学科の目標として掲げられている。
このように学習指導要領は目標を掲げているが、現在の数学教育において、生徒が考える場面が少なく、生徒は教師の話を聞き問題を解くだけという授業が多くされている。このことに関して、生徒は数学とは、問題の解き方を暗記して問題を解くという教科にしか思っていないのが現実である。そこで、数学教育において自ら学び、自ら考える力は生徒の力を伸ばすためには必要不可欠なもので、このような自ら学び、自ら考える力は、数学的活動を通して求める授業が有効ではないかと考える。なぜなら、主体的な態度の育成には、自ら問題を解く道筋を考え、また問題を解き終わったときその答えが本当に正しいのかを自ら振り返って考え、練り直すことをするようになれば、色々な場面においても主体的に考えることができると考えるからである。
そこで、本研究において、数学的活動の授業を通して、生徒が、自ら学び、自ら考える力の育成を試み、また、問題を自ら求め、自ら解決する問題解決能力の育成を試みていきたい。そして、数学的な考えを活かし自分から工夫して問題を解決したり、判断することができるようになることを目的として行った。
2.研究目的
研究目的:教材としてギリシア数学の等積変形を用いて、数学的な考え方を活かし自ら工夫して問題を解決したり判断したりすることができる。
研究課題:本研究は上記の目標を達成するために以下の課題を設定する。
課題1:
生徒は、数学史を用いた数学的活動を通して自ら学び、自ら考える態度が育成できるか。
課題2:
生徒は、人間の営みとしての数学を理解し、それにより考えられてきたことが認識できるか。そして数学を発展的にとらえることができるか。
研究方法
本研究は、この目的、課題に対し、授業事前に数学に関する意識を問うアンケートを、また授業事後においての数学に対する変容を問うアンケートを実施した。そのアンケートや授業を撮影したビデオをもとに考察する。
3.等積図形の教材化
原典として、Greek Mathematical
WorksT(pp.234〜253)を用いた。ここでは、ギリシア数学の等積変形を取り上げ、そして初めて曲線図形の等積変形を行ったヒポクラテスを中心とした授業を進めていった。ヒポクラテスは、月形求積法を用いて円積問題を解こうと試みている。ここで、ヒポクラテスは、「月形のうち、外周が半円の弧であるもの、外周が半円より大きいもの、外周が半円より小さいものを平方化した限りでは、ことごとくの月形を平方化した。」と述べている。このことによって、第4の求積法において、円と月形の和が直線図形の和と等しいことを示した。
本研究において、このヒポクラテスとレオナルド・ダ・ヴィンチの等積変形の比較をし、その中で数学的活動の授業を通して、生徒が、自ら学び、自ら考える力の育成を試み、また、問題を自ら求め、自ら解決する問題解決能力の育成を試みていきたい。そして、数学的な考えを活かし自分から工夫して問題を解決したり、判断することができるようになることを目的として行った。
授業概要
1日目
ギリシア数学の等積変形を考え、現在の数学との比較を行う。主に、ユークリッド原論の中にある比例中項を中心的に考えた。
2日目
ヒポクラテスが行った等積変形である月形求積法がどんなものなのかを考える授業を行った。
3日目
ヒポクラテスの月形求積法で円積問題が解けるかどうかを議論し、その後でレオナルド・ダ・ヴィンチの等積変形を紹介し、レオナルドの円積問題の解法を考えた。
まとめ
本研究では、数学史を授業に取り入れた学習が、数学的な考え方を活かし自ら工夫して問題を解決したり判断したりすることができることを示し、自ら学び、自ら考える力の育成においても有意味なものであることを示した。
授業後のアンケートにおいて、生徒は「図形の学習は好きだけれども、空間図形になると嫌いだ。」という意見が多数あった。この現象としては、おそらく空間図形になってくると頭の中で図形をかくことができなくなってくるのではないだろうか。本研究は、平面図形を取り上げていたが、今後の課題として、空間図形をより効果的に学習するために、コンピュータを使い、数学史を用いて空間図形の学習の意義を考える検証を課題として取り組んで生きたいと思う。