「積分」の導入における数学史の活用

〜17世紀における積分概念の発展過程にふれる

 

筑波大学大学院修士課程教育研究科   中嶋 恭子

 

1.研究目的

本研究では、「数学的活動」を通して、数学への興味・関心を一層喚起するとともに、新しい概念の導入や理論の拡張を促すためには数学史の利用が有効であることを確認することを目的とする。

2.研究方法

今日の定積分という一般的な概念に至るまでには多くの数学者たちによって「求積」の研究が繰り広げられてきた。例えば、アルキメデス(B.C.3C)から、オレーム(A.D.14C)や、ケプラー(A.D.16C)、ガリレイ(A.D.16C)、その弟子であるカヴァリエリ等々があげられる。その中でも本研究では、試行錯誤の過程を追体験するという目的を達成するために、今日の積分法の直接的萌芽と言われる1不可分量の方法を一般化したカヴァリエリの主張した「面の不可分量は線であり、立体の不可分量は平面である」という不可分量の考えの元、「ある平行線の間に2つの平面図形があるとして、その平行線の間にその平行線から等距離にひかれたどんな直線においても、その直線に含まれる部分がどんな場合にも互いに等しいならば、その2つの図形は互いに等しい」というカヴァリエリの原理を理解することから始めた。そして今日の定積分に繋がるような一般性を生徒各自が発見した上で、カヴァリエリの不可分量の考えの矛盾に目を向けた上で、その矛盾を払拭するためにウォリスの求積法を体験できるような教材を開発した。「積分」の教材開発の先行研究は数多いが、本研究においてはただ一つの数学的発見に終わらずに試行錯誤することによって数学が更に発展していくすなわち概念が直観的に形成されていく過程をも追体験することで偉大な数学者も身近な人間として捉えることができ、一つの事象に対して多面的な見方をもつことの必要性を理解できるところが特徴として挙げられる。

3.考察

原典を用いた数学史を取り入れることにより、生徒は当時の数学者の「数学の発見」の過程を自ら追体験することにより、「どのような目的」で、「何故」そのような思考にたどり着いたかを直観的に感じとり、新しい概念を吸収し、「どのような場面」で「どのように応用」すべきかを自らの判断で創造できるようになったと考えられる。また、「公式」が誕生する過程での試行錯誤することによって数学が更に発展していく、すなわち概念が直観的に形成されていく過程を追体験することにより、その本質を知ることができ、その結果深い理解(なぜ積分すると(定積分)面積が求まるのか)と応用を身に付け(なぜ積分すると(定積分)面積が求まるのかを理解したことによりただ公式に数字を機械的に当てはめるだけではない)、数学を「楽しい」と思える(数学を生き生きした人間の営みとしてうけいれられた)までになることを生徒自身が確実に感じ、認識したことがわかる。更に、グラフツールの利用によって、多くの生徒がウォリスの算術計算における極限の概念を直観的にとらえる手助けとなったと思われる。今後の課題としては、本研究における導入を行った場合、「微分」と接続させる授業研究をおこなう必要がある。

(引用・参考文献)

【1】礒田正美(1997).曲線と運動の表現史からみた代数、幾何、微積分の関連に関する一考察〜幾何から代数、解析への曲線史上のパラダイム転換に学ぶテクノロジー利用による新系統の提案と関数の水準の関連〜.筑波数学教育研究,16,

・近藤洋逸(1994).近藤洋逸数学史著作集 第5巻 数学史論論(佐々木力編).東京:日本評論社