要 約

1.はじめに
現在懸念されている「数学離れ」「学力低下」の問題や,小・中学校の新学習指導要領の実施に伴う授業時数削減を考えるにあたり,2003年度から高等学校に導入される「数学基礎」の中の数学史を題材にした,他教科との合科的な取り組みを導入した数学の授業実践を行った。

2.研究の内容

本研究では,「数学」「物理」の関連性を考えていくにあたり,『A Source Book in Mathematics』の中の『Brachistochrone Problem(最速降下曲線)』を基に教材開発を行った。Brachistochrone Problemとは,『重い物体が重力により,ある点Aから任意の他の点Bへ最も速い速度で落下するときの,曲線ADBを求めよ。』というものである。国立大学2年生を対象に授業を3回(90分×3)行い,授業の事前・事後に行ったアンケートの解答や授業毎の感想,授業の様子を撮影したビデオ等により,数学的事実や物理現象が発見・発展されるまでの歴史的過程について,原典における追体験及び数学的活動を行っていく中で,これまでに持っていた生徒の数学観や生徒がイメージしている教科間の関連性がどのように変容するかを調べた。

3.研究のまとめ
数学と物理との関連性に焦点を当てて数学史の授業を行った結果,数学史を利用した授業は生徒の持つ数学のイメージをよい方向に変容させると共に,数学に対する興味・関心,学習意欲を高め,また,物理を取り入れた数学の授業は生徒に「数学」「物理」は個別のものではなく,お互いに関わりのあるものであると認識させることができた。
理科との合科的な取り組みを数学に導入する実践例は他にも考えられる。新学習指導要領で授業時数が大幅に削減されるが,他教科との合科的な実践によりこの問題が少しは解消されると考える。また,今回の実践により数学観を変容させることを結論づけることができたので,今後は理科以外の教科と数学との関連性についても,生徒の持つ数学観が変容するための,また,授業時数削減問題に対応した教材開発及び授業づくりを行っていく必要があると考える。

【参考文献・URL】
 (1)David.Eugene.Smith(1959).A source book in mathematics, Dover Publications,pp.644-655.
 (2)礒田正美・土田知之(2001).異文化体験を通じての数学の文化的視野の覚醒;数学的活動の新たな  パースペクティブ,日本科学教育学会年会論文集,pp.497-498.
 (3) http://www25.tok2.com/home/toretate/d000103.html