要旨

             デカルトの「幾何学」による生徒の数学観の変容
             〜数学史原典から数学の発展を学ぶ〜


                               筑波大学大学院修士課程教育研究科  阿部 千里

1.はじめに
 本研究は、平成15年度から実施される新科目「数学基礎」に先立って、数学史を取り扱った授業を行い、生徒の数学に対する見方・考え方の変容をねらうものである。教材としては、数学史原典を用いたものを開発し、また授業を行うにあたって以下の目的を定め、目的達成のために課題1課題2を設定した。

目的:数学史原典を用いた授業を通して、生徒の数学観の変容をみる
課題1:当時の手紙や記述を用いて数学史原典を解釈することにより、数学が人間の営みである ことを捉えられるかどうか
課題2:数学の発展を追体験することで、生徒が自らの数学を発展的に捉えられるかどうか

2.研究の方法
 対象は公立高校2年生2クラス84名で、65分授業を2回行った。教材としては、デカルトの「幾何学」「精神指導の規則」を用いてテキストを開発した。デカルト自身の言葉を通して「幾何学」の内容を解釈し、そして当時の数学の発展を追体験することによって、数学を人間の営みや創造的な活動として、また生徒自らの数学を発展的に捉えることに焦点を当てて授業を行った。テキストの主な構成は、まず、デカルトの考え方をより発展的に捉えられるように、デカルト以前の数学を、そして、「幾何学」第1巻の線分による演算、平面的な問題、第2巻の方程式による曲線の分類の双曲線について取り上げている。生徒の変容に際して、事前事後アンケート、授業中に撮影したビデオを活用した。

3.研究のまとめ
 アンケートより、生徒の数学に対する発展的な見方は、授業前と授業後とで大きな変化が見られた。それは、デカルトによって発展した数学の追体験によるものであると思われる。そして、それと同時に、今自分たちが学んでいる数学が、人間の営みによって培われてきたということを捉えた生徒が事後の感想より多く伺えた。その他にも、数学に対する興味・関心が増した生徒、もっといろいろな数学者について知りたいという感想をもった生徒、また、自ら数学史を学ぶことが有意義であると述べていた生徒もみられた。このようなことから、数学史を用いた授業が、生徒の数学観に対して多くの影響を促し、そしてそれが有用であるということが伺えるであろう。