道具を利用した数学史学習による生徒の数学観の変容に関する一考察
〜 角の三等分問題を通して 〜
筑波大学大学院修士課程教育研究科 野口敬子
(要旨)
本研究は,数学史教材を生徒自身に解釈・追体験させることにより,生徒は数学を発展的に捉えられるか否か,また,そこから数学を学ぶ価値を見出すことができるか否かを明らかにすることを目的として行った。原典としてGreek mathematical Works T(pp.308−363),Multi-Sensory
Aids in the Teaching of Mathematics(pp.146−153)を用いた。前者により三大問題の歴史的流れや様々な解法を,後者により角の三等分器をそれぞれ導入し,授業資料,スライドなどを作り授業に活用した。垂線,平行線,角の二等分線の作図を既に学習している中学校3年生1クラス(46名)を対象に3時間の研究授業を行い,授業前後のアンケートと授業毎の感想,また授業の様子を撮影したビデオにより,生徒の数学観の変容を調べた。アンケートは,選択および記述の回答方式で,生徒の数学観を把握する内容にした。指導内容は,大きく分けて以下の4つである。@角の三等分問題,角の三等分器の存在を知り,その構造を考える。A他の三等分器の使い方を考え,実際に三等分線を描くことにより,三等分問題の追体験をする(グループ活動)。B自分たちで使い方を考えた三等分器の幾何学的構造を証明する。Cその他の角の三等分器を知り,その幾何学的構造を理解する。
授業の結果,生徒は今まで数学を断片的に捉えていたが,自分たちが学んでいる数学の位置付けを理解し,数学を発展的に捉えてきた。また生徒は,作図道具はコンパス,定規,分度器などに限られると考えていたが,必要に応じた道具ができることを理解した。そして,自分たちが何気なく使っている作図道具も数学的に発明されていることを理解し,更に自ら道具の法則を見つけようという意欲を生み出すことができた。また,道具の機能・制約を理解することにより,数学と聞いてすぐに思い浮かぶという公式の意味に興味を持つようになった。本授業では,生徒の追体験を重視したため,「自分で考える」ということの楽しさ,重要さを再認識した生徒も多かった。
参考文献:
・ Ivor Thomas(1939)「GREEK
MATHMATICAL WORKS T」Harvard University pp.256−363
・ National Council of Teachers of
Mathematics(1966)「Multi-Sensory Aids in the Teaching of
Mathematics」New York : AMS Reprint, 1966 pp.146−153