ベルヌーイの作図が真にLemniscateであるかを示す.即ち機械的に定義された曲線(Lemniscate)を代数的に解釈する.(定義に関しては以下の考察を見よ.
△ADB≡△CBD
∵AD=CB,AB=CD,BD共通:三辺相等
より∠ABD=∠CDB …@
同様に △ADC≡△CBA
より∠DCA=∠BAC …A
@Aより 二角相等で△NAC∽△NBD
∴AC//BD
点O,MがCD,ABの中点であることに注意し,同様にして
∴AC//OM
ここで,OM=r,AC=x,DB=y,∠NOM=θとおく.
直線OMとADとCBの交点を考える.中点連結定理より,
y/2+y/2−r=x/2+x/2+r
2r=y−x
∴r2=(y−x)2/4 …B
一方,余弦定理より,2c2=y2+4c2−4cycosθ
2c2=x2+4c2−4cxcos(π−θ)
=x2+4c2+4cxcosθ
よりz2−4ccosθz+2c2=0の2解がx,y(x<y)であるから,
解と係数の関係から, x+y=4ccosθ
xy=2c2
=(16c2 cos2θ−8c2)/4
=4c2((cos2θ+1)/2)−2c2
=2c2cos2θ
∴r2=2c2cos2θ ■
1.3種類の定義
Lemniscateの定義について多角的に考察する.第一に,本文にあるLemniscateの定義は要約すると,
「半径rの円Cと円外の点Oを固定する.定点Oを通る直線sと円Cとの交点をM,Nとし,直線s上にOP=OQ=MNを満たす点P,Qをとる.直線sを定点Oの周りを回すことで出来る点P,Qの軌跡をLemniscateとよぶ」
である.これはコンコイドの定義において曲線Bを円Cとし,基点Oを円C外にとる特殊な場合としてであることが分かる.ここで具体的な作図法を元に定義されていることに注目する.つまり一定の条件を与えた機械が構成されていて,ある部分を動かすことによって描く点の軌跡を曲線として定義されているのである.このような定義を機械的定義と呼ぶことにする.エジプト・バビロニア数学及び古代ギリシャ期(紀元前300年以前)においては,数学は測地学や天文学など実生活にそったものであり,機械(道具)によって対象を測り,描く(作図する)ことが数学のひとつのテーマであった.そこには「創意」と「構成」,「論証」の3段階が内包されている.ここで重視されるべき項目は「創意」「構成」であろう.場合に応じて機械を創ることは一種の直感(ひらめき)と積み重ねられた経験に依存しよう.
ここに機械学の問題のひとつである一致性(well-defined)の問題が見てとれよう.つまりある曲線(往々にして図形と呼ばれる)に対し,機械(による作図)は一意に定まらない.これでは同じ曲線に対し様々な定義が存在し,また作図された曲線が求める曲線かどうか判別(分類)することが困難である.この一致性の問題を改善すること,言い換えると「論証」を重視することが求められる.このような観点に立った定義が幾何的定義である.ここにLemniscateの幾何学的定義は,
「平面上で2定点F,F’からの距離の積がPF・PF’=(FF’/2)2となるような点Pの軌跡(集合)をLemniscateとよぶ」
である.勿論のこと,機械的定義によって定められた曲線と幾何学的に定められて曲線が異なるようでは意味が無い.ユークリッド(Euclid)期において,数学者は曲線を平面上の一定条件下の点の集合として考えた.その背景には幾何学の隆盛と論証主義がある.即ち,実際機械的に作図された曲線という具体的対象から脱却し,公理系の中で抽象的に曲線を扱うことにより幾何と初等代数の理論を用いて対象を考察(論証)することが可能になったと言えよう.
次にこの曲線に座標を入れることで,関数(方程式)として扱う定義がある.これを代数的(解析的)定義と呼ぶ.Lemniscateの場合,
「xy直交座標表示(x2+y2)2−2c2(x2−y2),極座標表示r2=2c2cos(2θ)」
となる.この定義の利点は,具体的(視覚的)に曲線が見えてこなくても代数や解析的手法により式操作をすることで曲線の性質が分かることだろう.
2.各々の定義の特色
機械的定義は曲線を実際に得ることができる点で優れている.またパラメータ(条件)を変えることが容易で,そのことで異なる曲線を得ることができる.ただし上述のように一つの曲線に対して,構成上異なる機械が幾つも存在すること,即ち定義が幾つか存在する可能性がある.だから機械によって描かれた曲線が求める曲線なのかどうか(一致性)を論証するのが困難であるという点で定義に曖昧さを感じる.この一致性を克服した幾何的定義は,曲線の実体を予想することが可能で且つ綿密に曲線を論証することができる.今日往々にして実際に正確な曲線を描く必要性は少ない.だから定義としてこの幾何的定義が扱われることが多いのである.代数的定義においては,最早曲線の実像を想像することは困難なことである.しかし具体性を棄却することで得られた抽象論は,個々の曲線という枠を越えて重要である.そこでは多々,変換や微積分といった手法が用いられ,より高位の概念へと移行する.この点で幾何的定義を代数的に読み直す作業は多分に見られる.しかし定義の条件を少し変化させたことによってできる曲線について考察することが難しい.(ここでいう変化による推移は連続性や微分可能性といった解析的変化ではない.)
3.関連性
定義の変遷から見ても,曲線を機械的定義から幾何的定義,代数的定義に解釈していくことは容易である.そこには多々証明を要するが,言い換えれば証明するだけで解釈できるのである.一方,この逆は困難を極める.それは機械的定義にしても幾何的定義にしても定義の中に「創意」が含まれているからである.つまり代数的に定義された曲線を実際に描く際,また方程式のパラメータをどのように操作すれば類似の曲線を得ることが出来るのかなどの状況を考えればその解釈の変換の困難さが分かろう.
ここで次のような事実がある.幾何的定義や代数的定義により曲線を指導することは,時に曲線の実像を見ずに上滑りの理解に繋がる可能性がある.特に,定義と曲線の関連性が希薄であるため,定義間の相互性つまり曲線間の相互性が無くなる恐れがある.これは幾何的定義や代数的定義の欠点を如実に表している.定義を変えることと曲線の変化との間の互換性を培う必要性がある.そのためには曲線を実際描く必要があるだろう.つまり曲線を機械的に解釈することが有用であると考える.しかし先述のように代数的定義による曲線を機械的定義として解釈することは困難であった.ここに昨今の曲線指導の限界を感じる.ひとつの手段としてテクノロジーの利用がうかがえる.例えばこのホームページも然りであり,また「カブリ」や「GC」といった幾何ソフトの利用も然りであろう.
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